大丸心斎橋店の顧客向けのプライベートサロンの計画。ジュエリーやアパレルなど、様々なブランドのためのイベントスペースとして、フレキシブルに使える空間が求められた。また、この場所ならではの特別な空間にしたいというクライアントの要望のもと、大丸心斎橋店の建築遺産や地場に関連した素材を取り入れて全体を計画した。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズによって設計された大丸心斎橋店は、2019年にその意匠を受け継ぎながら建て替えられた。ここでは、建て替えの際に撤去・保存されていたヴォーリズによる装飾部品を再利用。経年で傷んだ部分を補修しつつ、複数のモチーフを組み合わせて再構築している。そしてカウンターの背景など、人の目線が向かいやすい場所にこれを設置し、場所の歴史を受け継ぎながらサロンを象徴するアイコンとして位置づけた。
区画は、長さ約19mという奥行きが特徴的な空間であった。イベントスペースとして多目的に利用することを考えると、様々なシーンに対応できることが重要だと考えた。そこで、区画の中央に幅3.6mの大きな可動壁を計画。長手方向に壁を動かすことで、ひとつながりの大きな空間として使ったり、2つの性質の異なる空間として使ったり、可変性のある空間構成とした。さらに、可動壁や壁面には一定の間隔でスリットを設けており、必要に応じて棚やハンガーを脱着できるなど、システムとしても柔軟性を持たせた。
また、素材には地場に関連したマテリアルを採用している。一つは、発色の良い赤みが特徴的なカリン材。伝統工芸品である大阪唐木指物にも昔から使用されてきた材種で、これを建具やカウンター、見切り材などの木部に使用し、空間に上質さと硬質感を持たせた。一方、グレーで仕上げた壁面は、難波津焼(なにわづやき)の原料でもある、大阪湾から採取された海底粘土を左官材として使用している。同系色の磁器タイルやカーテンを組み合わせ、多様なブランドのアイテムを許容できるカラーリングを意識した。歴史あるモチーフを継承しつつ、これらの素材を取り入れることで、柔軟性のある現代の上質な空間を目指した。
クライアント:大丸松坂屋百貨店
計画種別:内装設計
用途:イベントスペース
計画期間:2023年12月~2024年11月
計画地:大阪府大阪市中央区
基本設計・全体監修:ケース・リアル 二俣公一 橋詰亜季 有川靖
全体施工管理:J.フロント建装
施工協力:BOSCO
照明計画:大光電機
写真:フォトスG