福岡の商業集積地・天神の南側に位置する「大丸福岡天神店」。その中のワンフロアにある見晴らしの良いエリアに、会員顧客向けの休憩ラウンジと商談のためのプライベートサロンを計画することになった。
会員向けのラウンジやサロンというと、高級感のある素材や煌びやかな照明など、分かりやすい空間のアイコンを設定することも少なくない。一方で、休憩や商品を選ぶ際に求められる空間の落ち着きを考えると、このような要素が過剰になる場合もあると感じていた。また、福岡天神店がある天神エリアは近年再開発が盛んになっており、街全体が大きな転換期を迎えている。変化の大きい場所にあるからこそ、サロンとしての適度な非日常性は持たせつつ、時代や環境に左右されない安定感のある場所が必要だと考えた。
計画の大きな特徴となったのは、仕上げに用いた石材である。これに天然木やサイザルなどの自然素材を組み合わせ、重厚感を持たせながらもミニマルな設えで全体を構成している。ベースの石材には、日本で広く流通している御影石を使用。コストバランスを考慮しながら、各素材と相性の良いニュートラルな材種とした。一方で、レセプションカウンターやテーブル、一部の壁床や花台などに、九州8県で採石される8種類の天然石(*)を選定している。それぞれの空間のポイントとすることで、「この場所ならではのものを空間に使用したい」というクライアントからのリクエストに応えた。
特色ある8県の石材は、現在も建材として一般に流通しているものもあるが、近年は需要が少なくなっているものもある。クライアントは近年、九州の様々なモノやコトに新たな焦点を当てて紹介することに力を入れており、これら石材の使用は空間をそのような活動の延長として捉えることが出来ると考えた。また、眺望の良い北側のラウンジでは、大判の木製引戸や着脱式のルーバーを設置し、空間に落ち着きを持たせると共にイベントなどを開催する際にも、フレキシブルに利用できるよう計画した。
*石材には唐原石(福岡)、唐津石(佐賀)、諫早石(長崎)、肥後石(熊本)、天照石(宮崎)、桜島溶岩(鹿児島)、雪豊後石(大分県)、琉球石(沖縄)の8種を使用した
クライアント:博多大丸
計画種別:内装設計
用途:ラウンジ
計画期間:2023年8月~2024年10月
計画地:福岡県福岡市中央区天神
設計:ケース・リアル 二俣公一 下平康一 久保山実暉
全体施工監理:J.フロント建装
施工協力:ズーム
照明計画:モデュレックス
家具製作・コーディネート:E&Y
石材:松下産業
写真:水崎浩志