アーツ&サイエンスが福岡に新たに構えるストアの計画。クライアントは「上質な日常」をコンセプトに、服などの身につけるものから職人によって作られた工芸品・プロダクトなど、商品を丁寧に吟味し、長く使ってもらえる良いものを追い求めながら店づくりを行なってきた。計画地となったのは、福岡の中心部にある大濠公園よりほど近い、閑静な住宅エリアの一角である。大濠公園は都市公園として古くから市民に親しまれており、私たちは今回の店舗を考えるにあたって、クライアントが大切にしてきたものづくりや店づくりの思想と、この環境であることの意味とが交差するような空間が良いと考えた。そしてモチーフに選定したのが、公園内にある「福岡市美術館」の外壁を彩る赤茶色のタイルである。建築家の故前川國男氏が用いたそのタイルは、焼物としての質感と艶やかな釉薬が美しく、普段からエリアを象徴する素材のようにも感じていた。そしてその工芸的な美しさは、アーツ&サイエンスの考え方とも相性が良いと考えた。
店舗が入ることになったのは、美術館と同じく1970年代に建てられた角地のアパートメント1階である。空間の中央に大きな躯体壁があり、これをどのように扱うかが課題となった。私たちはまず、この中央の駆体壁を中心に店内を周回できるプランを考えた。そして前述のタイルの質感だけでなく、貼り方も含めてこれを再現。美術館にも使用されている、四半目地と呼ばれるタイルを45度傾けた貼り方を用い、駆体壁全面に貼り込んで店舗の象徴的な表現とした。一方、店舗では商品の販売以外にも様々なエキシビションを行うことが想定されていた。そこで、この壁に引戸を組み合わせ、店内全体をシームレスに使用したり壁を境界に裏表で分けて使用することも出来る、自由度のある構成を考えた。また店内で落ち着いて商品を選べるよう、メインファサード側には敢えて間仕切り壁を造作。これも同材のタイルで仕上げ、道路側からはショーウィンドウとして、店内側では埋め込み式のシェルフとして機能するようにした。そしてタイルは壁面の仕上げとしてだけでなく、什器や小物ディスプレイの素材としても使用。115ミリ角をモジュールとして、壁面サイズやディスプレイパーツなど全ての寸法をこれを基準に決定し、繊細で多様な表現を試みた。外観全体は既存の建物と同じ白いリシン吹きで仕上げ、床にのみ店内と同じタイルを貼り込んでいる。既存の建物や環境に溶け込ませながらタイルという素材を用いることで、大濠公園とイメージを共有し、空間的な繋がりを適度に感じられるような場所を目指した。
クライアント:ARTS&SCIENCE CO., LTD.
計画種別:内装設計
用途:ショップ
計画期間:2020年12月~2021年9月
計画面積:91.39平米
計画地:福岡県福岡市中央区大濠
設計:ケース・リアル 二俣公一 古村浩一
施工:オブ
照明計画:モデュレックス
タイル製作:TAJIMI CUSTOM TILES
写真:水崎浩志