東京・表参道の目抜き通りから一本入った角地に建つ、新築のテナントビルの計画。「街に開かれた建物」にしたいという施主の希望を踏まえ、地上3階建ての建築が可能なエリアに、敢えて地下1階・地上2階建てのRC造の建物を建築することとなった。
通常テナントビルを設計する上では、容積率の最大化を図り、斜線制限を受ける上層階にも面積を抑えてフロアを設定することがある。一方で、利用価値が不明瞭なままに面積が優先されることもあり、必ずしも建物全体にとってメリットにならないと感じていた。そこで、今回の計画では施主とも議論を重ね、既成概念に捉われない構成とすることで、建物を差別化して価値の明確化を目指すことになった。
計画の大きな特徴は、コーナー部分に地下階まで貫くヴォイド(吹き抜け)を設けた点である。以前も同じ場所にはテナントビルがあったが、敷地に面する十字路は道幅が狭いうえ、道路境界に沿うように立ち上がったボリュームが周囲に圧迫感を与えていた。また、地下階の湿度や閉鎖的な印象も問題となっており、建て替えの課題の一つであった。
コーナー部分に設けたヴォイドは、周囲と適度な距離を取るためのバッファであり、各フロアをつなぐ縦動線として、また地下階へ光や外気を取り込む余白として機能する。そして2枚のスラブによって縁取られた外郭が、周囲に視線の抜けを生み出しながら見えないファサードを作っている。勿論、床面積としては必然的に最大値を取らないことになるが、面積や階数を優先しないことで、断面的には4m弱と高めの階高を、平面的には地下階や2階に大きなテラスが生まれ、密度の高い街中にありながら開放的な空間を得られた。
さらにコーナー部分のスラブは、開放感を損ねないように一本の鋼製丸柱によって支えられている。歩行者の視点からは天井スラブの在り方も重要だと考え、丸柱と一体的にオリジナルのアッパーライトを計画。通常のダウンライトではなく、天井からの反射光によってヴォイドの照度を確保し、構造と照明の両面から建物の特徴を強化した。各面のファサードはフロア毎にウィンドウの位置を変化させ、テナント計画上の壁量を確保しつつ、それぞれの方向から見え方が等価になるよう意識した。
全体はRC造のシンプルな構成ではあるが、通りからの視点や周囲との関係性を考えることで、表参道の裏通りの街並みに調和した、機能性と開放感を兼ね備えた建築を目指した。
計画種別:新築
用途:テナントビル(物販)
計画期間:2021年12月~2024年8月
構造:RC造(一部鉄骨)
規模:地下1階/地上2階建
敷地面積:177.85平米
建築面積:108.12平米
延床面積:283.54平米
計画地:東京都渋谷区神宮前
建築主:株式会社ティノラス
企画・管理:en one tokyo Inc. 西本将悠希 屋我詩織
建築設計:ケース・リアル 二俣公一 橋詰亜季、渡辺淳一建築設計事務所 渡辺淳一
施工:株式会社辰
構造設計:オーノJAPAN 大野博史 穀野直貴
照明計画:BRANCH LIGHTING DESIGN 中村達基
植栽計画:GREENETTA 高浦 裕子
撮影:志摩大輔