老夫婦が稲作を行うためのショートステイビラ。いずれも兼業農家にルーツを持ち、幼少から農業が身近だった二人は、リタイアした後も定期的に小規模で農作を行い自分たちが必要とするだけの作物を育てていた。この建築は彼らがこれからも作物を育てることを楽しみ、その時間をより豊かなものにするための建築である。
敷地は鹿児島県日置市、周囲を茶畑に囲まれた片田舎の一角にあり、元々夫婦が農作を行なっていた農地である。そこへ彼らが稲作を行うための建築を、シンプルな円形のボリュームで構築した。この円形ボリュームの直径は、彼らが1年に食する米の必要量から逆算された、必要最低限の耕作面積を中心に据えることで決定している。そしてその水田を囲うように、収穫した米の貯蔵倉庫、脱穀などを行う作業場、トラクター類のための駐車スペース、テラス、そして夫婦が短期間この建物に滞在するためのキッチンや水回り機能を備えた簡易宿泊スペースをそれぞれレイアウトし、円形状によってそれらを効率良く回遊できるプランとした。さらに敷地には元々その中央を横断するように高さ60cmの落差があったが、この建築ではその落差を均すことなく、そのまま取り込むことで棚田のような風景として活かすことを考えた。構造的には鉄筋コンクリート造で、8本の柱と、そこからキャンチ状に張り出す屋根から出来たシンプルな構造体である。V字形状の断面を持つ屋根は、その片面に太陽光を取り入れるソーラーパネルを備えており、稲作に必要な電気を賄うことが出来るようになっている。さらに屋根中央に集約した雨水は、地中二箇所に計画した貯水槽に蓄えられ、それぞれ農業用水と生活用水の一部として利用できるなど、持続可能なシステムを考えた。
土を耕し、田植えを行い、稲が育ち、収穫する。通常は建築との関連を持たない水田風景をあえて建築の中心に取り込むことで、効率的な作業動線を獲得しながら、夫婦が折々の風景を眺めながら豊かな時間の経過を感じられることを目指した。
計画種別:Unbuild
用途:別邸
構造:RC造
規模:地上1階
建築面積:91.36平米
延床面積:91.36平米
敷地面積:596.19平米
計画地:鹿児島県日置市
設計:ケース・リアル 二俣公一 古里さなえ