亀の井別荘 五番館

大分県湯布院に位置する「亀の井別荘」は、由布岳の麓、金鱗湖の湖畔にある大正10年創業の日本旅館。約1万坪の広大な敷地に、離れや本館、土産処などの建物が点在し、自然林と共に趣ある風景を作っている。今回のプロジェクトでは、その中の「五番館」と呼ばれる約80平米の離れを改修し、和室だった客室を露天風呂付きの洋室へと改装を行うことが求められた。

既存の間取りは、二部屋の和室が中心の落ち着きのある空間である。一方で建具や壁の間仕切りも多く、それぞれの部屋が独立した構成となっていた。また、部屋の周りは十分な広さの庭に囲まれており、今回の計画では庭師が既存樹を活かしながら設え直すことになっていた。これらを踏まえ、改修する上では室内の課題をクリアしつつ、新しく生まれ変わる庭の良さを活かした客室にしたいと考えた。

そこでまず、もともと４枚の引き違い扉となっていた庭に面した開口部を、幅約4mの大判のガラス窓に変更することにした。ダイニングテーブルを設置し、庭の風景を感じながら食事を楽しめる場所を作っている。ダイニングの横には小上がりのラウンジスペースを配置し、床の高さに変化をつけて適度な境界を作りながらも、視線を遮ることなく美しい風景を室内でも感じられる平面計画とした。窓の外には深さのあるデッキを設けており、さらに寝室側ではデッキの延長にヒバ材の露天風呂を配置して、外部との繋がりを視覚的にだけではなく物理的にも拡張させた。

また部屋全体は、構造的な補強をしながら部分的に柱を撤去し、室内でも広がりを感じられる状態を作っている。間仕切りにはタモ材のルーバーや可動引戸を取り入れ、寝室などを必要に応じて閉じることも出来るよう、空間の分け方に選択肢を持たせた。庭との繋がりだけでなく部屋同士の連続性も同時に整えていくことで、仕上げには和の空気を残しながらも、全体を現代の客室として更新することを目指した。

一期工事：亀の井別荘 湯の岳庵改修